『国境のない教育者』 Éducateurs sans Frontières | ||
―モンテッソーリ教育― レニルデ・モンテッソーリ 著 クラウス・ルーメル 江島 正子 共訳 Renilde Montessori, trsl. Klaus Luhmer, Johanna Masako Ejima Photo.Saulo Matute Montessori 学苑社 ユニバーサル・チャイルドの教育 1994年に「児童の権利に関する条約」が批准され、我が国においても、教育のボーダーレス化は、もはや避けようのない事態であると言える。そのことにいち早く気づき、独自の教育理論を展開させたのが、本書の著者の祖母であるマリア・モンテッソーリであった。 教育を一国の問題として放置しておいてはならないことは、貧困や飢餓、虐待、あるいは戦争の犠牲者となっている世界中の多くの子どもたちの状況を見ればわかるであろう。また、健やかな成長を実現するためには、人間発達の普遍的原理にそった教育が不可欠であるということもマリア・モンテッソーリの主張であった。著者は、偉大な祖母の遺志を受け継ぎ、複雑化・多様化する社会の中での教育の進むべき道について思索し、21世紀にモンテッソーリ教育が果たすべき役割について説く。 |
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マリア・モンテッソーリ (Maria Montessori, 1870-1952) イタリア生まれ。 1907年1月6日、ローマにCasa dei Bambini (子どもの家)を創設。 優れた教育法による“奇跡”が世界中に知られるようになった。 1909年、ローマで最初のモンテッソーリ教員養成コース(イタリア語)を開講。 1913年、ローマで最初の国際モンテッソーリ教員養成コース(英語)を開講。 1916年〜1936年までスペイン・バルセロナで活躍。 1952年、オランダで帰天。 ノルドヴェーク・アーン・ゼーのカトリック墓地に埋葬。 |
はじめに
本書のエピローグで、著者は「この本の原稿をいろいろな人に読んでもらったところさまざまな反応があった」、と言っています。
このエピローグを読んで、本書を邦訳しながら、私もどのような印象を受けたかを考えました。ここに簡単にその感想を述べてみましょう。
第一の印象は、レニルデさんがマリア・モンテッソーリのお孫さんであるためなのか分かりませんが、私の理解の限り、レニルデさんは完全に彼女の祖母マリア・モンテッソーリの心を自分のものにしており、モンテッソーリ教育の理解を21世紀の人間社会に適応して、子どもの真の本姓と、その子どもを取り囲む現代社会をとてもよく把握しておられます。
第二は、マリア・モンテッソーリもかつて指摘しているように、子どもと大人との社会における対立から生じる「戦争」が今も続いており、これをレニルデさんはいろいろな具体的事例をあげて立証します。相変わらず子どもの自然の発達の法則が無視され、子どもは大人の中で孤立し、ないがしろにされ、搾取され、傷ついているのです。
第三は、「国境のない教育者」というのが、国籍、人種、肌の色、社会階層、文化、環境の違いを超えて、子どもに先天的に内在する、人類の真の改善と進歩を実現するために必要な可能性を十分に理解し、そしてこの理解に基づいた発達の自然の法則を子どもから学ばなければならない教育者たちであることです。
本書で、レニルデさんはこの知恵をどのように見いだし、どのように生かすかの具体的な事例をたくさん列挙しますが、同時にまた、きわめて深い哲学的・形而上学的な鋭い分析をも加えています。
第四に、レニルデさんはしばしば1989年に国連総会で採択された「児童の権利に関する条約」を引用します。日本でも、5年遅れて、1994年4月22日に批准され、同年5月22日に効力をもつようになりました。
レニルデさんは、この条約の根底にあるべき、子どもの本性についての根拠づけが不十分であり、現在、世界の各国でこの条約の規定がどこまで守られているかについて疑問に思っているようです。
要するに、子どもと大人の間のギャップがいまだに存続し、戦争状態が解消されているとは言えないので、「国境のない教育者」には活動すべき広い戦場が残されているのです。クラウス・ルーメル 日本モンテッソーリ協会会長
目 次 | ||
はじめに クラウス・ルーメル プロローグ |
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第1章 みどり色の牛 第2章 名前は一度もつけてもらえなかった 第3章 小石の色 第4章 真理を簡単に言う 第5章 カササギの宝物 第6章 どのように「NO」と言うか 第7章 貧しい人は私たちに与えられている 第8章 お守り 第9章 やさしくしてあげるのは悪い 第10章 醜いことば 第11章 神様の三つのイメージ 第12章 カモメのくしゃみ |
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エピローグ 註 おわりに 江島正子 |
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私を育ててくれた教育者に捧げる (年代順に) | ||
DEDICATED TO MY EDUCATORS (in chronological order) | ||
オイゲニア・ロドりゲス・イ・ロドリゲス(私の乳母) Eugenia Rodriguez y Rodriguez(my ama) アダ・ピルソン・モイスケン(私の三番目の祖母) Ada Pierson Muysken(my third grandmother) ホセ・ルイス・マツーテ・アウセヨ(私の夫) José Luis Matute Ausejo(my husband) サウロ・マツーテ・モンテッソーリとペラヨ・マツーテ・モンテッソーリ(私の二人の息子たち) Saulo Matute Montessori &Pelayo Matute Montessori(my sons) マリオ・モンテサーノ・モンテッソーリ(私の父) Mario Montesano Montessori(my father) |