塔がほとんどないパリの街には珍しく、この存在感はなんだか違和感さえ感じてしまいますが、これはもともとサン・ジャック・ドゥ・ラ・ブシュリー教会(Eglise Saint-Jacques-la-Boucherie)の鐘楼部分でした。ブシュリーとは肉屋の意味で、この周辺に肉屋が多かったことが名前の由来です(肉屋の店主たちが資金を出して自分たちの礼拝堂を作りました)。教会は1508年から14年の歳月をかけて造られましたが、フランス革命時に破壊され、あとにこの塔だけが残りました。 教会の存在した中世にはスペインまでのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の起点とされていて、教会付属のこの鐘楼は巡礼者たちにとってのランドマーク的存在でした。塔の庭に入る門には、聖ヤコブの象徴であるホタテ貝の彫刻が置かれています。中世の巡礼者はかつてここにあった教会からセーヌを渡りサン・ジャック通りを通り、スペインに旅立ちました(当時はパンテオンの辺りがパリの外れでした)。1998年にサン・ジャックの塔は巡礼路関連遺産として世界遺産に登録されています。