出版権



出版権とは、その著作物を出版する(本を出す)ことができる権利ですが、出版権を設定できる者は 第21条に定める複製権を有する者となります。出版権の設定を受けた者は、当該著作物を出版する権利を専有することになり ますが、出版権の設定を受けてから6ヶ月以内に出版しなければならない義務を負います。ここで考えなければならないのは、 最近急速に流行ってきている携帯小説です。携帯小説も電子出版の一種ですが、著作権法的に言えば、携帯小説は、出版では なく配信(公衆送信)になります。携帯小説でヒットした小説が後に製本化され、出版されています。「恋空」は出版に留まらず、 映画化までされました。今後も一つの原作が色々なメディアで商品化されていくことでしょう。「恋空」も携帯電話という メディアがなかったらこれほどヒットしなかったかもしれません。これからも、新しいメディアの活用が新たな需要を掘り起こし、 新たな文化が生まれていくものと思います。どういう形にせよ、新たな文化の担い手の一人になることが私の希望でもあります。

(出版権の設定)
第七十九条  第二十一条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書 又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
2 複製権者は、その複製権を目的とする質権が設定されているときは、当該質権を有する者の承諾を得た場合に限り、 出版権を設定することができるものとする。

出版権は著作物の複製権を有する者がその著作物を出版する権利を与えるものです。出版する権利を付与された(引き受けた) 者は著作物を出版する権利のみを有し、著作物そのものには権利を有しません。すなわち、出版する本に関する著作権も 著作隣接権も持たないということになります。

(出版権の内容)
第八十条  出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作の まま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。
2 出版権の存続期間中に当該著作物の著作者が死亡したとき、又は、設定行為に別段の定めがある場合を除き、出版権の 設定後最初の出版があつた日から三年を経過したときは、複製権者は、前項の規定にかかわらず、当該著作物を全集 その他の編集物(その著作者の著作物のみを編集したものに限る。)に収録して複製することができる。
3 出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない。

出版権者は出版権が設定された原作を頒布するために複製する権利を専有することになりますから、出版権者以外の者が 頒布の目的をもって原作を印刷し、出版することはできません。但し、出版権設定後3年経過後は、当該著作物の複製権を 有する者は、当該著作物を全集又は当該著作物の著作者のみを編集したその他の編集物に収録することができます。また、 出版権者は、著作権や著作隣接権を有するわけではありませんので、出版権の対象である著作物の複製を許諾することは できません。

(出版の義務)
第八十一条 出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の 定めがある場合は、この限りでない。
 一 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から 六月以内に当該著作物を出版する義務
 二 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務

出版権者は、原則として、原作を受け取ってから6ヶ月以内に出版する義務、及び継続して出版する義務を負います。 6ヶ月以内に出版することができなかった場合、第84条の定めにより、出版権が消滅することもあり得ます。

(著作物の修正増減)
第八十二条  著作者は、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内において、その著作物に 修正又は増減を加えることができる。
2 出版権者は、その出版権の目的である著作物をあらためて複製しようとするときは、そのつど、あらかじめ著作者に その旨を通知しなければならない。

出版権者が出版物を増刷する際、著作者は、その著作物に正当な範囲で修正を加えることができ、また、出版権者は、 増刷する旨通知する義務があります。

(出版権の存続期間)
第八十三条 出版権の存続期間は、設定行為で定めるところによる。
2 出版権は、その存続期間につき設定行為に定めがないときは、その設定後最初の出版があつた日から三年を経過 した日において消滅する。

出版権の存続期間は、当事者間で特段の合意がない場合、出版後3年で消滅します。

(出版権の消滅の請求)
第八十四条  出版権者が第八十一条第一号の義務に違反したときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を 消滅させることができる。
2 出版権者が第八十一条第二号の義務に違反した場合において、複製権者が三月以上の期間を定めてその履行を催告 したにもかかわらず、その期間内にその履行がされないときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅 させることができる。
3 複製権者である著作者は、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたときは、その著作物の出版を廃絶 するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。ただし、当該廃絶により出版権者に通常生 ずべき損害をあらかじめ賠償しない場合は、この限りでない。

出版権者が、出版権設定後6ヶ月以内に出版しない場合、複製権者は出版権を消滅させることができます。 また、慣行に従い継続して出版しない場合であり、催告後3ヶ月以内に履行しない場合も出版権を消滅させることが できます。また、著作物の内容が、自己の考えに合わなくなった場合、著作者は、出版権を消滅させることができますが、 消滅に伴い出版権者に生じた損害を賠償する義務が生じ、損害を賠償できない場合は、出版権を消滅させることはできません。

(出版権の消滅後における複製物の頒布)
第八十五条  削除

本条は、平成11年の改正法により削除されましたが、その内容は、出版権が消滅した後に印刷した出版物を頒布することができる かどうかについての規定でした。その内容は、@設定行為に別段の定めがある場合、A支払い済みの印税に対応する部数の 出版物を頒布する場合を除き、頒布することができないというものでした。第85条が削除されたということは、出版権が 消滅した後に出版物を頒布することができるかどうかについては当事者間の合意によるということになります。そもそも 出版権が複製権なのか、複製権と頒布権も含むのかの議論があるところであり、実務的には契約上注意しなければならない ところだと思います。

(出版権の制限)
第八十六条  第三十条第一項、第三十一条、第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、 第三十三条の二第一項、第三十四条第一項、第三十五条第一項、第三十六条第一項、第三十七条第一項、第三十九条第一項、 第四十条第一項及び第二項、第四十一条から第四十二条の二まで、第四十六条並びに第四十七条の規定は、出版権の目的と なつている著作物の複製について準用する。この場合において、第三十五条第一項及び第四十二条第一項中「著作権者」と あるのは、「出版権者」と読み替えるものとする。
2 前項において準用する第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十三条の二第一項、第三十五条第一項、第四十一条、 第四十二条又は第四十二条の二に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物 を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者は、第八十条第一項の複製を行つたものとみなす。

出版権者は頒布目的において著作物を複製する権利を専有しますが、以下の場合は出版権の目的となっている 著作物の複製について準用されます。準用規定のうち、第35条第1項及び第42条第1項における著作権者は出版権者 に読み替えます。
@ 私的使用のための複製
A 図書館等における複製
B 引用
C 教科用図書等への掲載
D 教科用拡大図書等の作成のための複製
E 学校教育番組の放送等
F 学校その他の教育機関における複製等
G 試験問題としての複製等
H 点字による複製等
I 時事問題に関する論説の転載等
J 政治上の演説等の利用
K 国若しくは行政機関で行なわれた演説等の利用
L 時事の事件の報道のための利用
M 裁判手続等における複製
N 行政機関情報公開法による開示のための利用
O 公開の美術の著作物等の利用
P 美術の著作物等の展示に伴う複製

(出版権の譲渡等)
第八十七条  出版権は、複製権者の承諾を得た場合に限り、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。

出版権は、複製権者の承諾を得ない限り、譲渡し、質権を設定することはできません。

(出版権の登録)
第八十八条  次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
 一 出版権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)、変更若しくは消滅 (混同又は複製権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
 二 出版権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は出版権若しくは担保する債権の消滅に よるものを除く。)又は処分の制限
2 第七十八条(第二項を除く。)の規定は、前項の登録について準用する。この場合において、同条第一項、第三項、 第七項及び第八項中「著作権登録原簿」とあるのは、「出版権登録原簿」と読み替えるものとする。

出版権を第三者に対抗するためには登録する必要があります。