上演権・演奏権



演奏とは音楽の実演であり、上演は音楽以外の実演のことをいいます。音楽以外ですから、演劇であろうが、 舞踊であろうが、落語・漫才であろうが、朗読であろうが、手品であろうが、大道芸であろうが音楽以外の全ての実演が上演になりま す。

(定義)
第二条1項十六号  「上演」とは、演奏(歌唱を含む)以外の方法により著作物を演ずることをいう。

例えばパントマイムを例にとりますと、パントマイムは何か原稿があってそれを演じているわけではなく、 パントマイムそのものが著作物になります。そのことは第10条に定める「著作物の例示」にも明記してあります。また、楽譜を見て 演奏する音楽ではなく、その場で思いつくままに演奏する即興音楽も、演奏された音楽のメロディーなり歌詞は音楽の著作物になり ます。従って、即興音楽を複製して他人に譲渡する行為、又は即興音楽を自分で演奏する行為は法的にみると著作権の侵害となりま す。

(著作物の例示)
第十条   この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
   一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
   二  音楽の著作物
   三  舞踊又は無言劇の著作物
   四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
   五  建築の著作物
   六  地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
   七  映画の著作物
   八  写真の著作物
   九  プログラムの著作物

第10条に定める著作物はあくまでも例示であり、著作物の全てではありません。

著作物とは映画とか写真は別にして何か紙に表現されたもののようなイメージがあるかもしれませんが、舞踊やパントマイムも著作物 になりますので、例えば他人のダンスの振り付けを勝手に盗作し、あたかも自分の振り付けのようにして自分で踊り、又は他人に振り 付けの指導をすることは著作権の侵害になるかもしれません。但し、テレビでよくものまね番組の中でタレントが特定アーティストの 歌まね、振り付けのまねをして踊ったりしていますが、あの行為は、盗作でも何でもなく単なるものまねであり、逆に本人もものまね されることにより、プロモーション効果をもたらす可能性もあります。コロッケが美川憲一のデフォルメものまねをすることによって、 それまでパッとしなかった美川憲一も売れ始めたのがその典型例だと思います。

マルセル・マルソーがパントマイムを演じることは、パントマイム自体著作物であると同時に上演でもあるということになり、という ことは、マルセル・マルソーは著作者でもあり、実演家にもなり、著作権と著作隣接権を同時に保有するということになるということ でしょうか。

(定義)
第二条
 一 「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 二 「著作者」とは、著作物を創作する者をいう。
 三 「実演」とは、著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること (これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
 四  実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。

実演の定義の中で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む、とありますが、その中には手品や ものまねが含まれます。また、浅田真央がフィギュアスケートの世界大会でその技を競い合うものは競技であり実演ではありませんが、 荒川静香がアイススケートショーでショーとしてフィギュアスケートを見せる行為は実演となります。

また、上記四号にありますように、実演家とは実演する者だけでなく、指揮者や演出家など実演を指揮、指導する人も含まれます。従って、レコーディング する場合のプロデューサーも実演家に含まれることになります。

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいますから、 その定義に該当する表現であれば全て著作物になります。文化庁で作成、公開している「著作権テキスト」の中に、「アマチュアが鳥の 鳴き声を録音した場合、録音した人はレコード製作者になる。」としています。ちなみに、 レコード製作者とは、第2条の定義条項1項六号に「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう」となっています。

レコードに固定した「音」ですから、レコードに固定した音は何も楽曲を演奏するなど著作物を表現したものではなく、単に音を録音 物に固定すれば、音を録音した人はレコード製作者になり、固定された音は著作権ではなく、レコード製作者の著作隣接権で保護され るということになります。すなわち、著作権法で保護されるものは、必ずしも著作物に限るものではない、という解釈ができるのでは ないでしょうか。写真は写真の著作物といいますが、音の著作物とはいいませんからね。いずれにしろ、「音」であっても著作権法で 保護されることに違いはないようです。

今はやりのものに携帯電話に電話がかかってきたときの「着○○」というものがありますが、「○○」は何であっても、その音を最初に録音 物に録音した人(原盤製作者)がレコード製作者としての著作隣接権を有するという解釈ができます。但し、タレントの声を「着声」にする場合 は、タレントのパブリシティ権が関係してきますので注意を要します(タレントの許諾が必要になります)。

(上演権及び演奏権)
第二十二条   著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏 する権利を専有する。

著作権にあって、著作隣接権にないものの一つにこの「演奏権」があります。

第2条定義条項の7項に以下のような規定があります。

7  この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生 すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること (公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。

CDをプレイヤーにかけて不特定多数の人に聞かせることもこの「演奏権」に含まれます。このことはどういうことを意味する かというと、皆さんがデパート、喫茶店等で音楽が流れていることを聞くことはよくあると思いますが、あの音楽についての権利を 享受できるのは、実際に演奏する演奏者や歌手ではなく、作詞又は作曲した人だけだということです。どんなに名曲であろうと、 どんなに歌詞が素晴らしくても、演奏する人、歌う人によってその価値は全然違うものなるはずなのに、何故か、その権利は実演家、 レコード会社にはなくて、作詞家、作曲家だけ(実際は、それを管理しているJASRAC、音楽出版社を含む)がもっているという ことになります。何かおかしくないですか?私たちが楽しんでいるのは楽譜ではなく、演奏なり歌唱ですよね。

上演、演奏については、以下の場合は権利者の権利が及ばないようになっています。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条   公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物 の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述 することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この 限りでない。
2  放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る 放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続し ている自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。
3  放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的と せず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用 いてする場合も、同様とする。
4  公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合 には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に 提供することができる。
5  映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設(営利を目的として設置され ているものを除く。)で政令で定めるものは、公表された映画の著作物を、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない 場合には、その複製物の貸与により頒布することができる。この場合において、当該頒布を行う者は、当該映画の著作物又は当該映画の著作物に おいて複製されている著作物につき第二十六条に規定する権利を有する者(第二十八条の規定により第二十六条に規定する権利と同一 の権利を有する者を含む。)に相当な額の補償金を支払わなければならない。