複製権



著作権を英語でcopyrightというように著作権の一番根本の権利ということが言えます。

定義では、「印刷、写真、複写、 録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいうとあります。その中には、 脚本の上演、放送を録音、録画すること、建築の設計図面に従って建築物を建てることも複製になるとしています。

複製とは、その方法を問わず、有形的に再製することですから、手書きで 書き留める行為も複製になります。複製する量に 関係なく、他人のものを写す行為は複製です。楽曲作成に関して言えば、例え1小節であろうが、他人の楽曲を写したら複製権の 侵害です。しかし、現実的には1小節他の作品の複製を行なっても全体として全く違う作品になっていれば 複製したことがわから ないだけです。たまたま結果として1小節だけ同じメロディになったと言えばそれで通るでしょう。しかし、法律的に言えば、 それが例え1小節であろうと複製権の侵害であることは間違いありません。

楽曲の複製で裁判になった有名なものとして「記念樹」事件があります。裁判において、記念樹の作曲者である服部克久は当然の ことながら、 記念樹は、小林亜星が作曲した「どこまでもいこう」に依拠したものでなく、全くオリジナルに作曲したものであると 主張したわけですが、結果として「どこまでもいこう」の二次的著作物であると判断されました。

その理由は、旋律について、
@ 72%で同じ高さの音が使われている、
A 各フレーズの最初の3音と最後の音が全て共通している、
B 強拍部の音が一致している、
C 起承転結(構成)が酷似している、
D 「記念樹」から、「どこまでも行こう」の旋律が直接感得される、とされ、

また、依拠性について、
@ 「どこまでも行こう」が著名な楽曲であること、
A 両曲が酷似していること、
B 服部克久が「どこまでも行こう」を聴いたことがあると考えざるを得ないほど客観的事情が多数存在する、
としました。

逆に言うとこれだけの類似性、客観性があって初めて翻案権(編曲権)の侵害が認定されたわけですが、 これだけの客観的事実があっても一審の東京地裁では複製権侵害を認定せず、小林亜星が敗訴していました。ことほどさように、 複製権、翻案権の侵害を認定することは難しいというのも一つの事実ではあります。たまたま同じフレーズがあったとしても、 同じフレーズの曲が全く無名の曲だとしたら、作曲家がその曲を以前に聴いたことを立証することはほとんど不可能であり、 複製権の侵害は否定されるでしょう。しかし、自分の作った曲が過去にヒットした有名な曲に似ていたとしたら、例え、作曲する ときに全くその曲を意識しなかったとしても複製の疑いをかけられる可能性があるということです。有名な曲であり、同業であれ ば、作った曲が有名な曲と類似しているかどうかはわかるはずであるから、類似しないものに作り変えることまで裁判官は要求し ていると考えることができます。

書籍においても複製権の侵害問題は時々話題になります。私の好きな作家に立松和平がいますが、立松和平も自分の作品が、他の 作家の一部分を盗作しているとして著作権侵害で訴えられたことがあると思います。それまでは、時々テレビにも出ていましたが、 著作権侵害問題が起こった後はほとんどテレビに出ることはなくなりました。少しぐらいいいだろうと他人の作品を例え数行でも パクるとその後の生活に大きな影響を及ぼしかねません。

現在争っているものに松本零士と槙原敬之が争っていますが結果どうなるでしょうか。争っている内容は、槇原がCHEMISTRYのために 作詞作曲した「約束の場所」の中の1フレーズ「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」という部分が、 「銀河鉄道999」の中の「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」というフレーズに酷似しているというものである。 こういう短いフレーズは、たまたま類似することはあるし、あり得ると思うのですが、現実問題としてこの問題はマスコミにも度々 取り上げられかなり有名になりましたが、お互いに一歩も引く気はないようなので裁判官の判断にまかせるしかありませんが、個人的な 見解を独断的に言えば、これは盗作にはあたらないと思います。理由は、@「約束の場所」と「銀河鉄道999」はストーリーも背景 も全く異なる、A従って、類似のフレーズを使用している文脈も全く異なる、B夢と時間は誰でも使用する言葉であり、時間と夢を 組み合わせて使用する用例は特殊なものではなく、誰でも思いつくものである。従って、この争いは、槙原敬之が銀河鉄道999の フレーズをパクったものではなく、槙原敬之がオリジナルに創作したものであると思いますが、果たして裁判官はどのように判断する でしょうか。

著作権の侵害で最も争いが多いのがこの複製権の侵害問題だと思います。OSやワード等業務用ソフトの無断複製、CDやDVDの無断 複製で逮捕されたという記事はよく新聞に出ます。Winny等のファイル交換ソフトによる複製問題、新聞、雑誌、漫画等の無断複製、 配信問題等私たちの身の回りで複製権侵害問題は枚挙に暇がありません。中国において販売されているCDやDVDの90%は違法に複製さ れたものであるとも言われています。私たちも、知らない間に他人の著作物を違法に複製して使用しているかもしれません。著作者 にもっと敬意を表して著作物をもっと大切に扱いたいものです。

  (定義)
第二条1項
十五  「複製」とは、 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについて は、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
 イ 「脚本その他これに類する演劇用の著作物」については 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画する ことを含む。
 ロ 「建築の著作物」には、建築に関する図面に従つて建築物を完成することを含む。

上の定義にあるように、複製は、コピー機でコピーしたり、書き写したり、写真を取ったり、録音・録画する など有形的に再製する行為だけでなく、脚本に基づき上演する行為、放送を録音・録画する行為、建築の設計図に従って建築物を 完成させる行為も複製になります。

(複製権)
第二十一条   著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

しかしながら、複製権を含め著作権は例外的にその権利が制限されています。著作権が制限される、すなわち、著作権の権利が 及ばない場合については、著作権の制限条項において説明いたします。