キャラクター権



判例に見るキャラクターについての考え方

法律上、「キャラクター権」なるものが存在しているわけではありません。それでは、「キャラクター」とは一体何であり、裁判に おいてどのように扱われているのかについて見てみるのが一番理解をしやすいと思われますので、キャラクター権について争った判例を示 しながら、「キャラクター権」とは何なのかについて考えていきたいと思います。

(「ポパイ事件」S59.2.28、大阪地裁)

キャラクターとは漫画や小説などに登場する架空の人物、動物などの名称、姿態、役割を総合した人格とでもいうべきもの であって、原著作物を通じ又は原著作物から流出して形成され、原著作物そのものからは独立して歩き出した抽象的概念 であって、それ自体は思想、感情を創作的に表現したものとしての著作物性を持ち得ないもの といわざるを得ない。キャラクターは原著作物そのものではなく、むしろこれから離れて独り立ちをしている抽象概念であって その商品的利用を原著作権者の支配下に置こうとするキャラクター商品化権なる発想およびその運用を否定すべくもないが、 そのことから直ちに、裁判所が著作権法の解釈上著作物概念を原著作物そのものの有形的表現枠を超えた領域にまで及ぼすことはたやす く為し得ない。そうであれば、キャラクター商品化許諾契約においてライセンシーに与えられたキャラクターの表現方法のうちに 原著作物の複製にあたる方法が含まれ、その限りにおいて右ライセンシーは原著作物の複製権を有することはあり得ても、逆にライセン サーのするキャラクターの表現の全てが原著作物の複製にあたると解釈すべき理由はなく、従って商標法29 条に基づく商標権者の禁止権も明らかに原著作物の複製と認めえないものにまでこれを及ぼすことはできない。これを本件にあてはめると、 乙標章は「POPEYE」の文字のみからなるものであり、著作物の題名や登場人物の名前は著作物から独立した著作物性を持ち得ないの であるから、右標章もまた著作物の複製とは言えず、従ってキャラクター商品化権者といえども、これにつき商標法29 条を援用することはできない、として、漫画のタイトルの著作権又はキャラクター権を否定しました。

上記判例からは以下のことが言えます。

* キャラクターとは漫画、小説等に登場する架空の人物等に作者が与えた人格とも言えるものであり、原著作物からは独立して歩き出した 抽象的概念であって、それ自体は著作物性を持ち得ない。

* キャラクターの商品的利用を原著作者の支配下に置こうとする「キャラクター商品化権」なるものは否定できない。

(「ポパイ」H2.2.19、東京地裁)

ポパイのキャラクターというのは、本件漫画の主人公であるポパイに一貫性をもって付与されている姿態、 容貌、性格、特徴等 であって、著作権法の定義規定にいう思想又は感情を構成する重要な要素ではあるが、本件漫画の表現自体ではなく、 それから抽出された思想又は感情にとどまるものであるから、思想又は感情を「表現したもの」ということはできず、 従って、右規定にいう著作物と認めることはできない。もしも、ポパイのキャラクターが本件漫画の著作物とは別個の 著作物として成立するとするならば、ポパイのキャラクターは、本件漫画の創作的な表現とは別個の創作的な表現として存在しなけれ ばならないことになるが、ポパイのキャラクターというのは、本件漫画の主人公であるポパイがどのような人物であるかを説明した ものにすぎず、それ自体創作的な表現として存在するものではないから、本件漫画と離れて別個の著作物を構成するものと みることはできないというべきである。従って、ポパイのキャラクターが本件漫画と別個の著作物であることを前提とする主張は採用 することができない。ポパイの名称もキャラクターの一態様として保護されるべきであると主張するが、ポパイのキャラクターをもって 本件漫画とは別個の著作物を構成するものと認め得ない以上、上記主張は採用し得ない。

キャラクターとは、漫画や小説などに登場する架空の人物、動物などの名称、姿態及び役割を総合した人格 をいうところ、漫画の著作物について複製権の対象となるのは、当該著作物において表現された漫画であって、キャラクターでは ない

上記判例から以下のことを指摘することができます。

* キャラクターというのは、作家が登場人物に与えた姿態、要望、性格、特徴であって、表現そのものではないので 「著作物」とは言えない。

* キャラクターはその漫画と離れて別個の著作物とはならない

* キャラクターが漫画と離れて別個の著作物とならない以上、キャラクターの名称もキャラクターの一態様として保護することはでき ない。

* キャラクターとは、漫画や小説などに登場する架空の人物、動物などの総合した人格をいうところ、漫画の著作物に ついて複製権の対象となるのは、当該著作物において表現された漫画であって、キャラクターではない。

(「ポパイ」H.4.5.14、東京高裁)

ポパイのキャラクターは、本件漫画が長期間連載される間に描かれた多数の絵を通じて一貫性をもって描かれているポパイの姿態、 容貌、性格等をいうものであるというのであるから、個々の具体的な漫画それ自体とは異なる別個のものであることは、その主張自体 に照らして明らかである。ポパイのキャラクターに著作権が発生するというためには、キャラクターが著作権法2 条1項1の要件を充足し、著作物に該当することが必要であるからこの点について検討する。

ポパイのキャラクターはいわゆる作者がポパイに一貫して付与してきたポパイ像というものである。かかる意味でのポパイ像 それ自体が一定の「思想又は感情」を内容とするものであることは、前期の主張自体に照らして是認することができる。しかしながら著 作物というためには「思想又は感情」が内心に留まるものでは足りず、外面的な表現形式をとっていることが必要であるが、ポパイ のキャラクターは個々の具体的なポパイ漫画それ自体ではなく、これらの漫画を通じて主人公ポパイに著作者が付与しようとした特定の観念 それ自体であるというべきであるから、これが個々具体的な漫画とは別個の外面的な表現形式を取っているということはで きない。ポパイの人物像成立の経緯をみても、ポパイの人物像は、個々の具体的な漫画を通して次第に確立されたもので って、これが具体的な漫画を離れ、これとは別個の創作性を有する表現形式として存在するものではないことは明らかである。 従って、ポパイのキャラクターなるものは、ポパイの個々具体的な漫画を離れて、これとは別個の創作性を有する外部的表現形式と して存在するということはできないから、著作権法2条1項1の要件を充足していない。ポパイの名称も、その前提において既に失当である からこれも採用できない。

* 地裁判決と基本的には同趣旨

(「ポパイ」H9.7.17、最高裁)

漫画において一定の名称、容貌、役割等の特徴を有するものとして反復して描かれている登場人物のいわゆるキャラクターは著作物 にあたらない

* キャラクターは抽象的概念であって、著作物ではないということがこれで確定した。キャラクター権又はキャラクター商品化権等と 言われている権利の法的根拠は、キャラクターなるものが、例えば漫画、小説等において、作者が架空の登場人物に一貫して与えてきた抽象 的概念であるから、漫画の場合は漫画の中に表現されている著作物に関する著作権であり、また当該キャラクターを図形商標として商標登録 してあれば商標権ということになる(著作権と商標権が抵触した場合は著作権が優先する。商標法29条)。法的に保護されるのは著作物 又は登録商標であり、キャラクターではない。また、そのキャラクターが著名なものであれば、不正競争防止法でも保護される可能性 はある。

(「キャンディキャンディH11.2.25、東京地裁」)

本件連載漫画は、連載の各回毎に、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物の存在を前提とし、これに依拠して、 そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立した ものといえるのであり、従って、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された 二次的著作物に当たると認められる

被告らは、本件連載漫画における登場人物の絵が、専ら被告の独創によるものであり、そこには原告の創造性が全く介入していない として、原告には、本件連載漫画の登場人物につき被告が新たに書き下ろす絵については、その作成等を差し止める権利はない旨主張する。 本件連載漫画は、絵のみならず、ストーリー展開、人物の台詞や心理描写、コマの構成などの諸要素が不可分一体となった一つの著作物 というべきなのであるから、本件連載漫画中の絵という表現の要素のみを取り上げて、それが専ら被告B の創作によるからその部分 のみの利用は被告Bの専権に属するということはできない。そして、本件連載漫画が原告作成の原作との関係 において、その二次的著作物で あると認められる以上、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画に関し、 原著作物の著作者として本件連載漫画の著作者である被告と同様の権利を有することになるのであり、他方、本件原画のような本件連載 漫画の登場人物を描いた絵は、本件連載漫画における登場人物の絵の複製と認められるのであるから、これを作成、複製、又は配付する 被告らの行為が、原告の有する複製権を侵害することになるのは当然である。

* この判決によりますと、二次的著作物と認定された登場人物は、その後いくら原作に関係なく描いたとしても、その描い たものが漫画の登場人物であると認定される限りにおいて、二次的著作物になるということになります。

(「キャンディキャンディ」H12.3.30、東京高裁)

控訴人は、漫画の物語作者と絵画作者とが異なる場合、キャラクター絵画の利用に関して物語原著作者の権利を認めると、結果として、 絵画作者は以後物語作者の許諾がない限り、当該キャラクター絵画を一切作成することができなくなるのみならず、類似するキャラクター 絵画までも作成できないことになりかねないという不当な結果を招くと主張するが、漫画の物語作者と絵画作者とは、互いに協力し合う者 同士として、当該漫画の利用につき、それぞれが単独で為し得るところを、事前に契約によって定めることが可能である。明示の契約が成立 していない場合であっても、当該漫画の利用の中には、その性質上、一方が単独で行い得ることが両者間で黙示的に合意されていると解する ことの許されるものも存在するであろう。また確かに、同一の絵画作者が描く複数のキャラクター絵画が類似することは容易に考えられると ころであるが、あるキャラクター絵画が、他の物語作者の作成に係るストーリーの二次的著作物と評価されるに至った以上、絵画作者は、新 たなキャラクター絵画を描くに当たっては、右二次的著作物の翻案にならないように創作的工夫をするのが当然であり、それが不可能である とする理由を見出すことはできない。

* 物語作者と漫画作者が異なる場合、漫画の著作物が小説形式の原作に依拠する限りにおいて、例え漫画作者が原作に依拠せずに漫画を 描いたとしても、漫画の著作物の漫画が原作の二次的著作物であると認定されている限りにおいて漫画のみ単独では存立し得ない。絵画作者が、 物語作者の二次的著作物でないと主張するためには、原作である漫画に登場する登場人物を彷彿させない絵画を描くしかないということであるが、 個人的にはどうなんだろう?という感じがします。

キャンディキャンディのキャラクターは、確かに、文章としての原作があり、原作に 忠実に漫画を描き、原作をビジュアル化することにより、主人公の性格が作り上げられていったものかもしれません。先に原作があり、後で漫画 が描かれた。時系列的に見れば、文章が原著作物であり、漫画は二次的著作物ということなのでしょう。しかし、キャンディキャンディという漫画 本の中では、その関係は成立したとしても、ストーリーから離れて絵は独立して存在し得るし、ストーリーに関係なく絵だけを 欲しがる人もたくさんいるはずです。ストーリーに関係なく描かれたキャンディキャンディにまで、何故、原著作物と二次的著作物の 関係が成立するのか理解しがたいところです。

また、キャンディキャンディの絵が描かれた色々なキャラクター商品の購買者は極めて 低年齢の購買層であることが容易に想像でき、そういう購買者は別にキャンディキャンディのストーリーを意識することなく (そもそもストーリを理解できるかどうかという部分も含めて)、純粋に絵の魅力でキャンディキャンディの色々なキャラクター商品 を購入しているのではないでしょうか。

当然のことながら、絵を描くという労力に原作者が何らかの貢献をすることはなく、 100%漫画家だけの労力で作成されるものです。キャンディキャンディという漫画は確かにストーリーが優れていたからこそ人気にな ったと思います。しかし、貢献度という点においては絵の部分がストーリーの部分よりはるかに大きかったのではないでしょうか (この部分は、音楽の場合の実演家と作詞家・作曲家の関係によく似ています。すなわち、作詞・作曲した著作者には「演奏権」を 根拠に著作権使用料が支払われるのに対し、「演奏権」を有していない実演家はいくら自分のCDが飛行機、デパート、レストラン、 喫茶店等で流されても全く著作権料は入ってきません)。また、ストーリーを構成するにあたり、文章を担当する作家と絵を描く漫画家 それに出版する出版社が打合せの中で、次はこういうストーリーでいこう、今度はこうしようかという話は出なかったのでしょうか。 もし、そういう打合せをしながらストーリーを作っていったとすれば、ますます文章作家が原著作者となり、ストーリーに依拠しない キャンディキャンディの絵のビジネスにまで権利を主張し、それが裁判で認められるというのは如何なものかと思います。

「ポパイ事件」において、法的に保護 されるべきは著作物であり、キャラクターではないという判決が出ているにも拘らず、キャンディキャンディの判決は、絵という 著作物ではなく、キャンディキャンディという漫画で作り上げられたキャラクターを保護しようとしているとしか思えません。東京地裁 H11.2.25の判決において、裁判所は、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画に関し、 原著作物の著作者として本件連載漫画の著作者である被告と同様の権利を有することになる、と言っています。ここで、裁判所は、 絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画、と言っていますが、漫画本である限りはその通りです。しかし、文章 と絵は切り離して存在し得るし、原作者も文章だけのキャンディキャンディを発行する権利を持っています。しかしながら、文章だけの キャンディキャンディなどどれだけの人が購入するでしょうか。キャンディキャンディの購入者は、キャンディキャンディ の絵を買っているのであって、キャンディキャンディの絵(キャラクター)に合わせた文章を作っていくのが文章作家の役割りであるような 感じがします。そうであるならば、絵が主であり、文章は従の関係になり、絵が原著作物、文章は二次的著作物ということになり、 原著作物である漫画家は文章の作家に断わりなく絵だけのビジネスをどんどん行うことができるようになります。確かに、キャンディ キャンディのイメージ、すなわちキャラクター はあります。キャラクターの中でキャンディキャンディは存在します。しかし、決して文章が主、漫画(絵)が従の関係ではないはず です。キャンディキャンディ事件では、全ての裁判において漫画家側が敗訴しているわけですが、個人的には権利者間でバランスが取れた 判決だとは思いません。

(「キャンディキャンディ」H12.5.25、東京地裁)

被告らは、本件連載漫画について著作権を有するのは被告いがらしゆみこのみである旨、及び仮に原告に何らかの権利があったとしても 本件連載漫画のストーリーを用いないで登場人物の絵を使用するだけであれば著作権法上の問題を生じない旨の共通認識の下で、共同し 、本件連載漫画のキャラクターの商品化事業として、被告カバヤによる本件商品の製造販売を遂行したものと認められるから、本件商品の 製造販売による原告の著作権の侵害については、各自、共同不法行為者として責任を負担するものというべきである。

* ライセンサーがいくら漫画家の描く絵が独立した著作物であると説明して受けたライセンスであっても、結果として複製権 の侵害であると判決が出れば、ライセンシーも当該侵害について権利者に対して連帯責任を取らされる。但し、責任当事者間の合意に 基づき、ある特定者だけが責任を負担することはあり得ますが、たとえ契約上、金銭的負担がなかったとしても裁判記録上は 敗訴者として残ることになります。

(「さざえさん」S51.5.26、東京地裁)

漫画の登場人物自体の役割、容貌、姿態など恒久的なものとして与えられた表現は、言葉で表現された話題ないしは筋や、特定の コマにおける特定の登場人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであると解される。しこうして、キャラクターという 言葉は、連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容貌、姿態、性格等を表現するものとしてとらえることができるものであると いえる。

観光バスの両側には、連載漫画「サザエさん」の登場人物のキャラクターが表現されているものということができる。 本件漫画と連載漫画を対比するまでもなく、本件においては、被告の本件行為は、原告が著作権を有する漫画「サザエさん」が長年月に わたって新聞紙上に掲載された漫画サザエさんのキャラクターを利用するものであって、結局のところ原告の著作権を侵害する ものというべきである。

* ここで「キャラクターが表現されている」という表現がされていますが、その意味するところは、キャラクターは、それが内包する 人格というべきものと判断されていますから、そこにはその容貌だけでなく、性格も含まれているものであり、そして法的に保護される ものは、キャラクター(性格)ではなく、それが表現された容貌、姿態が著作権によって保護されるということです。