放送事業者・有線放送事業者の権利



放送事業者の著作隣接権につきましては、 平成18年12月22日、法律第121号(施行は平成19年7月1日)により、著作権法の一部改正が行われ、IPマルチキャスト放送(*)に よる地上波放送の再送信対応のための改正が行われました。その概要は、「放送の同時再送信の円滑な実現のために、放送の同時 再送信について、有線放送と同様の取扱い(報酬請求権化)」をしようとするものです。従来は、実演家が送信可能化権を持っていまし たから、インターネットを使って送信しようとする場合は、実演家の許諾を得る必要がありました。しかし、今回の改正により、 放送の同時再送信の場合は、実演家の許諾を得ることなく、送信可能化を行うことができるようになりました。但し、実演家に対する 相当な額の補償金を支払う義務はあります。

著作権法上は通信という概念は存在せず、公衆送信権(送信可能化権)という権利のみが存在しています。 公衆送信のうち同一内容のものを同時に 送信するものが放送であり、それを無線通信で行なうものを放送と呼んでおり、有線電気通信で行なうものが有線放送となっています。 オンデマンドでサーバーに蓄積された情報又はサーバーに入力する情報を送信することが自動公衆送信であり、 自動公衆送信し得るようにすることが送信可能化です。

   * IPマルチキャスト放送とは「電気通信役務利用放送法」に基づくIPマルチキャスト技術を用いた有線 電気通信の送信をいいます。

放送、有線放送、インターネット送信するための権利関係を整理したいと思います。

著作権者は、公衆送信権等(送信可能化権を含む)を持っています。従って、放送事業者、有線放送事業者、通信事業者 及びインターネットサービスプロバイダー、並びにインターネットを利用して公衆送信を行なう個人、会社等は、著作権者の 許諾なく当該著作権者の著作物(映画の著作物を含む)を放送、有線放送、公衆送信、送信可能化することはできません。

次に実演家と放送の関係についてみてみたいと思います。実演家は、録音権及び録画権、放送権及び有線放送権、並びに送信可能化 権を持っています。まず、録音権及び録画権ですが、これは自分の実演を録音し、又は録画する権利ですから、実演家の実演を録音又は 録画しようとするものは、実演家の許諾を得る必要があります。録音・録画したものの用途は、録音、録画を許諾したときに権利者との 間で合意されることになります。第91条2項において、権利者の許諾を得て「映画の著作物」において録音され、又は録画された実演には、 実演家の録音・録画権は及ばないとありますので、「映画の著作物」の複製権は映画製作者の著作権だけが働き、実演家の権利は及ば ないということになります。但し、映画の著作物から音だけを取り出してサントラ盤を作る場合は、実演家の 録音権は行使できます。また、実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する、とありますから、実演家の実演を 生放送しようとする場合は、実演家の許諾を得る必要があります。送信可能化権ももっていますから、インターネットによるライブ 中継も実演家の権利が及ぶことになります。

レコード製作者と放送の関係を見て見ましょう。まず、レコード製作者は複製権を有していますから、本来であれば、 放送事業者が放送のために放送用設備にレコードを複製する行為は複製権の侵害になるはずですが、第44条の規定により、 放送事業者による放送事業のためにする一時的固定は権利者の権利が及ばないとされています。 こで「一時的」とは録音又は録画後、又は放送後6ヶ月となっています。これを超えて放送 設備にレコードを一次固定することは複製権の侵害になります。スターデジオ事件においても、その蓄積曲数及び放送曲数から、物理 的に明らかにこの一時的固定期間の制限を超えて固定していると思われますが、結果的には一審においては複製権の侵害は否定されま した。今後、記憶装置が飛躍的に増大しかつ安価になり、またデジタル化されると、放送で使用されるCD等は事前に全てコードを 振られて記憶装置の中に蓄積され、コードを入力するだけで、いつでも使用したい楽曲を記憶装置から取り出し、放送される ようになると思いますが、そういう観点から言うと、第44条の一時的に録音・録画できるという規定は時代にそぐわないもの になっている感じがします。

日本MMO事件においては、ファイルローグの利用者が ファイルローグのシステムを利用して市販レコードの楽曲を収容したMP3 ファイルをサーバーに蔵置しておく行為が複製権の侵害であると認定されました。また、この事件ではレコード製作者が有する 送信可能化権の侵害も認定されています。MMOに限らず、個人が自分の HPにおいて、楽曲をMP3ファイルに複製したうえで、 送信用サーバーにアップし、受信者の要望に応じていつでも送信できるような状態にしておくと、その行為はレコード製作者の 持つ送信可能化権の侵害となります。

放送事業者は、その放送において商業用レコードを使用する際、 レコード製作者の許諾を得る必要はありませんが、 商業用レコード二次使用料を支払う義務はあります。

公衆送信及び送信可能化について、再度それらの定義を確認しておきたいと思います。

(定義)
 七の二 「公衆送信」とは、公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信 (電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者 の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物 の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。
 八 「放送」とは、公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う 無線通信の送信をいう。
 九 「放送事業者」とは、放送を業として行なう者をいう。
 九の二 「有線放送」とは、公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として 行う有線電気通信の送信をいう。
 九の三 「有線放送事業者」とは、有線放送を業として行う者をいう。
 九の四 「自動公衆送信」とは、公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に 該当するものを除く。)をいう。
 九の五 「送信可能化」とは、次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
   イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に 接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用 記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。 以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆 送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に 変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
   ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信 装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プロ グラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

著作権法上の保護を受ける放送は第9条に定めるところによります。

(保護を受ける放送)
第九条  放送は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
 一 日本国民である放送事業者の放送
 二 国内にある放送設備から行なわれる放送
 三 前二号に掲げるもののほか、次のいずれかに掲げる放送
   イ 実演家等保護条約の締約国の国民である放送事業者の放送
   ロ 実演家等保護条約の締約国にある放送設備から行われる放送
 四 前三号に掲げるもののほか、次のいずれかに掲げる放送
   イ 世界貿易機関の加盟国の国民である放送事業者の放送
   ロ 世界貿易機関の加盟国にある放送設備から行われる放送

保護を受ける有線放送は第9条の2に定めるところによります。

(保護を受ける有線放送)
第九条の二  有線放送は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
 一 日本国民である有線放送事業者の有線放送(放送を受信して行うものを除く。次号において同じ。)
 二 国内にある有線放送設備から行われる有線放送

放送事業者及び有線放送事業者は、著作者の公衆送信権を侵害することなく放送又は有線放送することが できる著作物を、放送又は有線放送のために一時的(録音・録画後6ヶ月、又は放送又は有線放送後6ヶ月)に 録音又は録画することができます。

(放送事業者等による一時的固定)
第四十四条  放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利(公衆送信権)を害することなく放送することができる著作物を、 自己の放送のために、自己の手段又は当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段により、 一時的に録音し、又は録画することができる。
2 有線放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなく有線放送することができる著作物を、 自己の有線放送(放送を受信して行うものを除く。)のために、自己の手段により、一時的に録音し、 又は録画することができる。
3 前二項の規定により作成された録音物又は録画物は、録音又は録画の後六月(その期間内に当該録音物又は 録画物を用いてする放送又は有線放送があつたときは、その放送又は有線放送の後六月)を超えて保存することが できない。ただし、政令で定めるところにより公的な記録保存所において保存する場合は、この限りでない。

著作物の放送について著作権者の許諾が得られない場合は、文化庁長官の裁定を受けて当該著作物の放送を 行うことができます。但し、文化庁長官が定める補償金を支払う義務があります。

(著作物の放送)
第六十八条  公表された著作物を放送しようとする放送事業者は、その著作権者に対し放送の許諾につき協議を 求めたがその協議が成立せず、又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の 使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払つて、その著作物を放送することができる。
2 前項の規定により放送される著作物は、有線放送し、専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを 目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置 に情報を入力することによるものを含む。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。 この場合において、当該有線放送、自動公衆送信又は伝達を行う者は、第三十八条第二項及び第三項の規定の適用がある 場合を除き、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

放送事業者の権利は第四節(第98条から第100条)にその定めがあります。

第四節 放送事業者の権利

(複製権)
第九十八条  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は 影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。

放送事業者は自分の放送、自分の放送を受信して行う有線放送を受信して、その放送を録音、録画、写真 等によって複製する権利を有しています。従って、テレビ番組を家でビデオに録画する行為は放送事業者の 複製権の侵害にあたる行為ですが、第102条で準用する第30条第1項に規定により、私的複製については放送 事業者の複製権は及ばないということになります。

(再放送権及び有線放送権)
第九十九条  放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、放送を受信して有線放送を行う者が法令の規定により行なわなければならない有線放送に ついては、適用しない。

放送を受信して、その放送を再放送する権利、又は有線放送する権利は当該放送を送信した放送事業者が 有していますから、放送を受信した第三者が受信した放送を再放送し、又は有線放送することはできません。

(送信可能化権)
第九十九条の二  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、 その放送を送信可能化する権利を専有する。

今は、パソコンでテレビを見ることができるようになっていますので、当然受信した番組をパソコン内に 録画することは簡単にできますし、録画した番組を公衆送信するためにサーバーにアップロードし、送信 可能化することも物理的には簡単にできるようになっています。しかし、著作権法では権利者の承諾なく行う かかる行為は一切禁止されています。

(テレビジョン放送の伝達権)
第百条  放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、 影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。

所謂、テレビ番組のパブリックビューイングは、放送事業者が有する権利です。従って、その番組を製作した 放送事業者の許諾を得ることなく大型モニターを使用したパブリックビューイングを行うことはできません。 音楽等著作物をテレビ放送する場合は、放送事業者だけでなく著作者の許諾も得なければならなくなります。 野球等スポーツの放送及びパブリックビューイングについては、当該スポーツの主催者の許諾も得る必要が あります。

有線放送事業者の権利は第五節(第100条の2から第100条の5)にその規定があります。 その内容はほぼ放送事業者と同じですので、それらの解説は省略いたします。

第五節 有線放送事業者の権利

(複製権)
第百条の二 有線放送事業者は、その有線放送を受信して、その有線放送に係る音又は影像を録音し、録画し、 又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。

(放送権及び再有線放送権)
第百条の三 有線放送事業者は、その有線放送を受信してこれを放送し、又は再有線放送する権利を専有する。

(送信可能化権)
第百条の四 有線放送事業者は、その有線放送を受信してこれを送信可能化する権利を専有する。

(有線テレビジョン放送の伝達権)
第百条の五 有線放送事業者は、その有線テレビジョン放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いて その有線放送を公に伝達する権利を専有する。