山川方夫書誌作成の経緯


 教育出版の国語教科書「中学国語3」に掲載されていた山川方夫「夏の葬列」の教材研究から出発した。
 昭和60年頃から著作を収集しはじめる。絶版が多く、古書店をめぐる日々が続く。参考文献も同時に収集しはじめるが、生来の熱しやすく冷めやすい気質がたたり、遅々として進まなかった。
 平成に入り、書誌研究家の坂敏弘さんの知遇を得て、「参考文献目録」の作成を始める。書誌については、学生時代より、谷沢永一、浦西和彦氏の講義や著作で興味あることの一部であったが、正確には素人である。
 書誌作成と仕事の両立困難さを言い訳に休止をする度に、坂敏弘さんから励まされ、だましだまし継続していたところ、平成8年4月22日、坂さんから、井出香理「山川方夫参考文献目録稿著作目録《昭和四〇年二月以降》付載」(日本文学論叢二四号)のコピーが送られてきた。まさに青天霹靂。迂闊だった。と同時に井出香理さんのような若い世代にも山川方夫を研究しようという方がいることにもうれしさを覚えたのも事実だった。
 その井出香理さんの補遺を作成し、坂さんの計らいで「頌」九号に載せていただいた。その後井出さんから励ましのお便りをいただき、足りない点も指摘していただいた。
 書誌は完璧を期したつもりでも、遺漏や誤記、誤植等が必ずあるし、逐次追加があるのも常である。そのため、発表のタイミングが非常に難しい。そこでインターネット上に公開することにより、これらの書誌の欠点を補えるのではと考えた。また、今年の五月、筑摩書房から「山川方夫全集」が刊行されるようになった。これを機に山川方夫の読者も研究者も増えることだろう。このホームページが読者のお役に立てばと公開に踏み切った次第である。
 その「山川方夫全集」に関井光男氏の詳細な解題が各巻に掲載されている。関井氏といえば、筑摩文庫「坂口安吾全集」の解題でならした方である。立派な解題に敬服している。その中に本書誌の遺漏の部分もあるが、今回は未見のため、掲載は見送った。

関井光男氏の解題について
 1.参考文献目録の遺漏について
 筑摩書房版「山川方夫全集」の関井光男氏の解題から、以下14件の参考文献の遺漏を見つけた。 

番号 執筆者 題目 掲載誌 発行年月日 対象作品
1 河上徹太郎 文芸時評 東京新聞(夕刊) S33.7.21 その一年
2 篠田一士 文芸時評 日本読書新聞 S33.9.29 帰任
3 荒正人 文芸時評 日本読書新聞 S33.11.21 海の告発
4 長谷川龍生 文芸時評 日本読書新聞 S36.4.24 海岸公園
5 小田切秀雄 日本文学五月の状況 週刊読書人 S36.4.24 海岸公園
6 無著名 「海岸公園」山川方夫著 北海道新聞 S36.10.18 海岸公園
7 平田次三郎 一貫して生の観念を追究−「海岸公園」山川方夫著 徳島新聞 S36.10.22 海岸公園
8 庄野潤三 祖父と母と”私”と−山川方夫著「海岸公園」 週刊読書人 S36.10.23 海岸公園
9 無著名 殺意としての愛−山川方夫著「海岸公園」 週刊東京大学新聞 S36.11.1 海岸公園
10 進藤純孝 読書三昧−生活の余剰に目を向ける曾野綾子、山川方夫両氏の作品 新刊ニュース S36.11.1 海岸公園
11 林 房雄 文芸時評・下 朝日新聞(夕刊) S38.2.28 夜の中で
12 村野四郎 近頃読んだ本 中日新聞(夕刊) S38.10.4 親しい友人たち
13 中田耕治 文学4月の状況 週刊読書人 S39.3.23 愛のごとく
14 日沼倫太郎 文芸時評 日本読書新聞 S39.3.30 愛のごとく

 自分の甘さを思い知らされた。特に山川方夫の代表作である「海岸公園」についての探索の甘さは弁解の余地もない。S36,S39年版の「日本読書新聞」(縮刷版)と林房雄「文芸時評」(桃源社)は私が所蔵しているものだけに恥ずかしい。原因は色々あるがここでは言い訳はしない。関井氏に脱帽である。
 現物確認を行った結果、「10」は、見つけることができなかった。「新刊ニュース」S36.11.1の前後もみてもなかった。是非とも探してみたい。「3」は、執筆者は、「篠田一士」で発行年月日は「S33.11.24」であった。「11」は、「夜の中で」について林房雄が言及しているのは、S38.6.29の朝日新聞(朝刊)の文芸時評であった。(H13.1.14)